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アニメ版 CLANNAD 全話鑑賞

超いまさらですが、アニメ版 CLANNAD を全話鑑賞……って今まで見てなかったんかい! とツッコミ受けそうですが;、正座して見るべきアニメということもあってついつい延ばし延ばしにしてたら結局見ずじまいで現在に至るワナ;。先日、部屋の片づけをしている際に発掘されたので、いいかげん見ようと心に決めて、嫁と一緒に全話鑑賞した次第だったりします。

でもって、感想。

おいこらなんですかこのアニメ版は;;;。
っつーか、すいません、見ていてブチ切れそうになりました。ねーよこれは;、状態;;。

もちろん酷評されるべき点ばかりというわけではなく、相応に評価されてしかるべきところも多いです。各ヒロインルートの違和感のない融合や、各種エピソードの見事なまでの再編成。一部、オリジナル展開もあり、特に杏・椋・智代をまとめて片付けたテニスのエピソードなどには本気で舌を巻きました。

けれども致命的なのは、おそらくはアニメ化スタッフ陣が、作品全体を俯瞰して見たときのストーリーの流れ、そして「CLANNAD(家族)」の意味を正しく理解せずにアニメ化してしまっている、という点。

確かにこのアニメ版では、様々な家族の姿を丁寧に描いてはいました。けれどもそうした「多彩な家族の在り方」を描いているから「CLANNAD」なのではない。そんなのは超薄っぺらい作品理解でしかないし、それでは渚のいう「町も大きな家族」だというセリフの意味が分からない。

「なぁ、朋也。俺はこう思うんだ。
結局、人が生きる意味は、家族や愛する人の中にあるんじゃないかってな…
だから俺たちは…
あの日、自分たちの夢を諦めて、それを渚に託すことができた…
ひとりで生きてたって、いいことなんてありゃしねぇよ…
遠い星で、ひとりで暮らしてみろ。何を糧に生きていける?
なんにもねぇだろ。
だから、人は繋がってる。
誰かと繋がっていて、初めて、生きている、と実感できる。
喜びも生まれる。
だから、それを否定するなんてことはしたくねぇんだよ…俺は…」

この作品でいう「家族」というのは、大きな意味での「人と人との繋がり」のことであり、そしてこの作品は、人と人との繋がりにある様々な思いやり(=自分の生きる意味や夢、幸せを他者の中に見出すこと)の形を描いている。(実際、原作には恐るべき数のサブヒロインルートが存在していますが、そのほぼすべてがそうした様々な思いやりの形を描いていました。)

そしてこの「(自分のことを顧みず)他人のことを常に思いやり続ける」ことの究極形が「親から子への愛情」であり、ここを基軸にメインストーリーが進んでいるんですよね。

そのことを踏まえて渚ルートの全体像を振り返ってみると、ストーリーの流れは(原作の方では)

  • 心も身体も弱かった渚が、汐を身籠ることで、母としての強さを見せていく。
  • 渚のように強くはなれなかった朋也も、渚の死後にそれを理解して大人になっていく。

となっている。特に原作の方では、渚が卒業してから汐を出産するところまでの二人の描写が秀逸で、

  • 渚を支えてきたはずの朋也が、いつの間にか渚に支えられている。
  • 汐を身籠った後は、渚が母親としての心の強さを見せまくる。
  • その心の強さに朋也がまるでついていけなくなる

という様子が丁寧に描かれているんですよね。ところがアニメ版ではこの部分の描写が皆無であるために、なぜ渚が自らを母体の危機に晒しながらも汐の出産にあれほどまでにこだわったのかがわからず、『泣かせるシーンを作るために』汐を産ませて殺してしまう、という、安っぽい作り手の薄っぺらい物語に見えてしまうのです。

ちなみに原作にはこういう重要なセリフがありました。(アニメ版では軽くカットされてましたけど;。)

「なぁ、渚。ひとつ訊きたいんだ。
おまえが、強く生きること…
強い母として、新しい命を生んで、育くんでいく、ということ…
それは、おまえにとっての何なんだ…? それを教えてくれ…」
「わたしのやるべきことです」
「それは…一番か?」
「はい…わたしの一番です。
今までずっと弱かったわたしが…母として最初にやるべきことなんです…
ここで負けたらわたしは…人の親になんてなる資格もない…弱い子です…
それでは…わたしのお腹に宿ってしまったこの子が…あまりに可哀想です。
だから、絶対に産まないといけないんです…
朋也くんとの間にできた…この子を…強い母として。」

渚が汐の出産にこだわったのは、いつも誰かに守られ支え続けられてきた「弱い自分」ではなく、誰かを支えて生きていくという「強い自分」になりたかったから。この After Story はものすごく簡単に言えば、渚と朋也が「子供」から「大人」になっていく物語なのですが、この大人と子供の分水嶺になっているのが、「自分のことより他人のことを優先できるかどうか?」「人を幸せにすることを自分の幸せにできるかどうか?」という点なのです。(この作品の「大人」である秋生や早苗、直幸(朋也の父親)はそういう描かれ方をしています) だから、ストーリーの終盤になって朋也がしみじみと次のセリフを語るのです。(このセリフもカットされていましたが)

「…渚」
その名を呟く。
「時間かかっちまったけどさ…」
「やっと、家族になれたよ、俺…」
「人を幸せにして、自分も幸せになる家族の仲間に…」

これらの点を踏まえてアニメ版を振り返ってみると、

  • 「渚」というキャラクターの成長をうまく描けていない。
    渚は最初から純粋で人のことを疑わず、誰のことも嫌いにならないキャラとして描かれており、しかも体も心も弱々しい、それ故にギャルゲーらしい「男から見た場合に都合のよい女」「守ってあげるべきマスコット的な存在」のようにも見えます。しかし原作では After Story まで含めると、実はそうした「人のことをまず真っ先に考える」思いやりの形こそが作品のテーマの一つであり、弱かった彼女が成長して、母親としての強い心を得て大人になっていくことこそがこの作品で描きたかったモノだとわかります。
    麻枝氏は、電撃姫 (2004/07)のインタビューで、「渚シナリオは結局、弱かった渚が母親になるまでの過程を描く物語」なのだと語っていたそうですが、アニメ版ではこの成長がまるっきり描けていない。「守るべき可愛い彼女 & お嫁さん」というキャラクター像のまま、最後までマスコットキャラ的に描かれ続けてしまっていました。
  • 「朋也」のヘタレっぷりがまるで描けていない。
    この作品のキモは、母親になっていく渚と対照的に、親になることの意味を理解できなかった朋也が、5 年以上経って初めてそのことを理解していく、というところにあるのですが、「朋也が何を理解できていないのか?」という点、そして「朋也が何を理解することで親になっていくのか?」という点がうまく噛み砕けていません。(これは「母親になった渚」を描写できていないのだから当然と言えば当然)

これらが描けていないと、上っ面の感動はあっても、心の底に響くような感動にはならない、と思うんですよね。自分よりも他人を優先させること。他人の幸せを自分の幸せにしていくこと。誰かに支えられている立場から、誰かを支えていく立場へと変わっていくこと。それらが一気に腹落ちすることで、朋也は父親を受容し、渚の思いを理解し、その死を受容していくことができるようになるのです……が、おそらくアニメ版だけを見ていた人たちにはこの辺がからっきし伝わらなかったと思うのです。

AIR の場合も残念ながらバックボーンストーリーとしての「大きな全体の作品構造」が理解されていなかったですが、CLANNAD も同じ失敗に陥ってしまっていることを鑑みると、本当に京アニはこうした「物語作り」が弱いのだと感じてしまいます。現在に至っても、京アニは「ハイクォリティな映像化」という点で高い評価は得ていても、オリジナルストーリーではヒット作を生み出せておらず、この点が課題なのかも。アニメ評価データベースのスコアを見てみると、中央点が 95 点で歴代 2 位のハイスコアでありながらも、レビューの中を見ると結構評価が割れており、納得できないという人が多いのもよくわかるところ。体裁は上手く取り繕っているけれども、けれども肝心の物語には十分な魂がこめられなかった……と思います。今どき珍しい 4 クール作品で、商業的には成功したのでしょうが、返す返すも残念でなりません。

……まあ、そんな感想を抱いてしまうのは 10 年ちょっと前に CLANNAD をプレイして、人生を大いに反省した自分だからこその思い入れ故のものなんでしょうかね;^^。


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コメント(2)

自分はアニメ→まちばりあかねさんの考察→原作の順番に読んだのですが、アニメを見た時点で似たような事を思ってました。
なんというか話に渚が置いてきぼりというか…というモヤモヤが。もしかするとそのモヤモヤの正体がこの辺りの事だったのかもしれませんね。
 またまちばりあかねさんの重たいくらいのゲームインプレッションを読みたいですね。無理はなさらなくていいですが、ちょっと期待してます。

自分はアニメ→まちばりあかねさんの考察→原作の順番に読んだのですが、アニメを見た時点で似たような事を思ってました。
なんというか話に渚が置いてきぼりというか…というモヤモヤが。もしかするとそのモヤモヤの正体がこの辺りの事だったのかもしれませんね。
 またまちばりあかねさんの重たいくらいのゲームインプレッションを読みたいですね。無理はなさらなくていいですが、ちょっと期待してます。

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