そんなわけでまずはヲタクな話から。発売日に速攻で読破。いや~、いいお話でした。

というわけで、俺の妹がこんなに可愛いわけがない、最終巻 vol.12。第一巻を本郷氏の結婚式で紹介されてから 5 年、ようやく完結した物語なわけですが、いやはや見事な幕引きで感心。途中からはごく普通の兄妹話に変わってしまって、落としどころも割と平凡かつ常識的なところに落ち着いた感はありますが、それでもまあ十二分に読み応えのある作品でした。
……なんですが、amazon の書評を見てびっくり。おいおいどんだけ炎上してるんですかと小一時間(笑)。まあ、炎上する理由もわからなくはないのですが、それにしたって脳髄反射な書評が多いのにはさすがに苦笑い。せっかくなので、ちょろっと書いてみようかと思ったりします。
★ 以下ネタバレなので、まだ読んでない人は読まないことをお勧めします。
ストーリー展開的には、桐乃との話にケリをつけて、黒猫とくっつけて終わるかとも中盤ごろには期待したのですが、最終的には誰ともくっつかない展開になりましたね。amazon では桐乃 END だとか近親相姦 END だとか評している人が多いんですが、おいおいどうやってこれを読んだらそうなるんだと小一時間;。
この物語、ひとことでまとめてしまえば、桐乃が子供の頃に抱いた幼心に折り合いをつけていくという、家族愛のストーリー、なんですよね。
物語の全体像を振り返ってみると、お兄ちゃんっ子だった桐乃が小 3 のときに自分の気持ちを認識し、さらに小 6 のときに麻奈美の余計なひと言のおかげで関係をこじらせていくことになる。本来であれば、仲良し兄妹として過ごしていくうちに、適度に飽きてきて適度な距離感を見つけ出してそれぞれが一歩を踏み出していくのが「普通」なわけですが、麻奈美のおかげでそれができなくなってしまう。努力してどんどん磨きがかかっていく桐乃と、まるで冴えない兄貴という現実的なギャップ。兄貴を軽蔑しつつも、封印したはずの幼い恋心も覚えているという矛盾。桐乃は現実の兄貴に絶望して、バーチャルな世界に耽溺していく……というのが作品の入り口までの流れ。もちろんこのまま二人の道が断絶したまま分かれていく筋書もあったのでしょうが、桐乃は黒猫や沙織といった友達との出会い、そして父親とのやり取りなどを通じて、兄貴のカッコ良さを再認識してしまう。それが、かつて麻奈美に邪魔されたことでできなかったことのやり直し、つまりお兄ちゃんに甘える妹と、妹に甘えられるお兄ちゃんという兄妹としての通過儀礼のやり直し、すなわち二人のこじれた関係の修復につながっていくのですよね。
そういう目線で見てみると、京介はどこまで行ってもお兄ちゃん、なのですよ。この作品、スーパー京介モードのときの独白や行動が中二病よろしくぶっ飛んでいるので誤解しやすいのですが、京介の桐乃に対する目線や行動は、どこまで行っても妹の幸せを願うお兄ちゃん、なんですよね。兄と妹の関係、つまり「お兄ちゃんは無条件に妹を守るもの」、それは普通は普通は兄妹がもっと幼いときに通過しているべきものなわけですが、桐乃と京介の場合、本来通過すべき年頃に本来通過すべき儀礼を通ることができなかった。だから結果としてこんなに話がこじれて大きくなるわけだし、常識人な京介はスイッチを入れてスーパー京介モードにならなきゃ対応できなくなる。けれども結局のところは、最後の恋愛ごっこや結婚ごっこも含めて、京介は兄貴として妹に対して本来昔にやっておくべきことをやっただけに過ぎないのですよ。
ラストシーンを切り出して桐乃 END だとか言う人もいるようですが、いやいやラストを見れば明らかなように、二人は恋人としての対等の目線にはなっていない。京介はラストで桐乃に不意打ちのキスをするわけですが、動揺する桐乃に対してまるで動じない京介とという構図は、結局のところは妹を見守る優しい兄の目線なんですよね。だからこそ最後は、「桐乃が走っていく先には――どんなやつが待っているのやら。」となる。(この辺のセンスの良さは抜群でした。……っつーか、あのラストを読んでどうして桐乃エンドという解釈になるのか小一時間ぐらい問い詰めたい;;;。書くのもアホらしいですが、最後の自己紹介は、未来の桐乃の彼氏に向かってのセリフですよ、念のため;。)
作者の伏見氏が、京介の言動について「桐乃のことは嫌いだけれども妹のことは大好き」と語ったそうなのですが、なるほど言い得て妙。簡単にいえば、京介は桐乃の兄貴になりたかったけれどもなれなかった。それをやり直す物語なんですよ。
兄貴になれていない。だから他の女の子たちとも恋人関係になれない。不幸だったのは、黒猫やあやせ、加奈子といったサブヒロインのキャラたち。黒猫やあやせ、加奈子は京介の「お兄ちゃんとしての頼りがい」の部分に惹かれていくわけですが、本来的に京介がお兄ちゃんになり切れていないのだから、他の女の子と結ばれるはずがない。つまり、他の女の子たちと出会ったタイミング、関係が発展したタイミングが悪いのですよね。一番身近にいる異性である桐乃との関係がうまく構築できた後であれば(=この物語の後であれば)、誰とでもうまくなれる可能性があったはず、なのですよ。もうね、黒猫とかかわいそすぎるとしか言いようが(涙)。(というか、あの黒猫展開ってキャラ人気投票に基づいていたはずなのですが、ストーリーライン的には悲劇のヒロインにしかならないわけで;、かなりあんまりな扱いではないかと;;。作者の伏見氏には物語の着地点は最初から見えていたはずなんですよねぇ。)
そういう目線で見るとわかるのですが、同情の余地がないのが麻奈美;。なんでも京介のことを思って行動してくれるかのように見えていて、実のところは自分の利益中心に動いているという、実は作品中で最も腹黒なキャラ。筋書を振り返ればわかるように、こうなったのも自業自得なのですよ;。他の女の子たちは直球勝負で京介にアタックしているのに対し、麻奈美だけは策略で京介を捕まえようとする。「……うううう! 桐乃ちゃんさえいなければ! 全部上手く行ってたんだよ!」という上から目線な発言からもわかるように、麻奈美の場合、京介と対等な関係が築けない。だからこそ麻奈美にとっては自分の感情をさらけ出して京介にぶつかることが必要になるし、腹パンwも必要になるのですよね。
結局のところ、他の人と恋愛ができるほど、桐乃や京介が大人ではなかった、というのが物語の要点。兄貴になれなかった京介が兄貴としての役割を果たし、兄貴に甘えられなかった桐乃が一度思いっきり京介に甘えることで、幼かった頃の自分の気持ちに踏ん切りをつける。本来、幼いころに通過すべきだった兄妹の儀礼をやり直したことでようやく新しいスタートラインに二人が立つ、というストーリーになっているわけで、いやはや、ものすごくすっきりとしたお話でした。
……とまあいろいろ書いたわけですが、スーパー京介モード含めて書きっぷりや言動が暴走しまくっている上に、京介の捻ったセリフも多いので、表層に踊らされやすい、本質を見失いやすい作品ではある。こと兄妹ネタに関しては反射的に嫌悪感を覚える人も多いと思うので、そういう意味で amazon の書評がえらいことになるのもよくわかる。けれども家族愛としての筋書自体は非常に綺麗で、自分的には心に響くストーリーではありました。自分のようにリアルに妹がいる人間とかだと、京介みたいにいいお兄ちゃんにはどうやってもなれなかったよなぁとか、いろいろ昔を思い出してちょっとセンチメンタルになったりとか、そんなことをあれこれ考えさせられるかもしれません。作品的にも、if のストーリーを PSP 版のゲームで回収してみたりとか、メディアミックスをうまく使ったという意味でいろいろ興味深いものがありましたが、自分的にはこのラノベ版が、ジェットコースターのように連れまわして楽しませてくれたという意味で、非常に気に入りました。全体像がわかってから読み返すとまた別の面白さがありそうなので、また近いうちに読み返してみたいものです。
なにはともあれ作者の伏見さん、5 年に渡る作品、おつかれさまでした! また次回作にも期待したいところです。
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