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五等分の花嫁 : 作品の総評

※ 以下、ネタバレありますので原作未読な方は読まないことをオススメします。

というわけで、こちらでは作品の総評を。

いやー、とにかくよくできている、このひと言に尽きます。これは人気が出るのも当然で、久しぶりにめちゃめちゃ面白い作品だったと断言できます。普通に読んでも十分に面白いのですが、作品をがっつり解析するとさらにスルメイカのように楽しめるという、驚くべき作品です。私の場合、原作を読み終わってからたっぷり 1 か月近く夜な夜な原作の作品解析をし続けていたのですが、次から次へと情報がつながっていき、明らかになっていく作品の全貌にはとにかく驚愕しました。

作品の細かい解説は別エントリに譲ることにしますが、この作品の凄いところをピックアップすると、以下のような感じでしょうか。

■ 時系列順に並べなおすことによって繋がるストーリーラインと見えてくる真実

作り込まれた設定とストーリーを、いったん解体して順序を入れ替えて見せていくという手法は、古くはハルヒやエヴァンゲリオンなどでも使われました。特にエヴァのその完成度は恐ろしく高く、何年も多くのファンを魅了し続けるほどの作り込みだったわけですが、この作品はジャンルこそ違えどそれに匹敵するレベルのものだったと思います。特に感心するのは、そうした情報が後出しだけではないという点。最初から花嫁が誰であるのかが決まっていて、結婚式から始まる物語というところもそうですし、(『推しは盲目』という見事な目くらましに合った人も多数いたと思いますが)後から読み返すと花嫁は彼女以外ありえない、という納得感しかないストーリーラインになっているというのも凄いところ。

そしてこの作品単体で必要十分な情報をきちんと提示している、という点も私としては非常に高く評価したいです。雑誌や Web などの情報に頼ることなく、作品の中だけでおおよそたいていのことに説明がつけられるようになっているというのは、作品の作りとして非常に誠実だと思います。加えて、そうした情報を読み取りやすくするために、重要なセリフは敢えてフォントが変えてあるし、また作者の画力が高いために表情などから読み取れる情報量が非常に多いというのも凄い。私が作品を解析してみてびっくりしたのは、これだけの解析に耐えうる作品強度を持っているという点で、2000 年頃に AIR や CLANNAD、Fate/stay night などの作品を解析していたときのことを思い出しつつ、かなり夢中になって作品解析をしていました。作品の無矛盾性という意味ではおそらく五等分の花嫁の方が上なんじゃないかと思います。いやー、ホント凄いです。

■ 作品の着地点の納得性

普通、マルチヒロインな作品は、当然『推し』も人によって異なるわけで、五つ子を平等に描きながら万人に受け入れられる=万人が納得する結末を描くのは非常に難しいものです。一人を選べば選ばれなかった子が推しの人たちは荒れるし;、ハーレムエンドにしたらそれはそれで甘っちょろいと袋叩きに合うのが普通……だと思いますが、ぐぅの音も出ないほど見事な着地点を見せたところには本当に驚きました。ポイントは二つで、風太郎というキャラクターを勉強しかできない勉強バカな高校生という設定にしたこと、そして作品の着地点を「付き合う」ではなく「結婚」にしたこと。この二つがあるからこそ、風太郎が選んだ結論に関して、すっと腑に落ちる納得感があるんですよね。(例えばこれが大学生の恋愛で、付き合う相手として選んだのだったら全然納得できる着地点ではないです;。) このキャラクター造形までもが計算され尽くされていたのか……と思うと、正直ぞっとするほどです。

■ 高校生という青春を、6人がそれぞれ全力で駆け抜け切る爽快感

そしてなにより素晴らしいのは、読後感の爽やかさでしょう。作品を丁寧に追っていくと、狂言回しで終わってしまうキャラもなく、(風太郎を含めた)6人それぞれにきちんと物語がある。そしてその6人が、高校生という青春時代を全力で駆け抜け切る爽快感に加えて、祭りが終わった後の一抹の寂しさがちゃんと残るのが素晴らしいんですよね。どう見てもハーレムエンドでありながら作品として納得感があるのは、選ばれなかった4人との着地も綺麗に描かれていたこと、つまり個々の恋愛感情が、家族愛という形に収斂していくプロセスをきっちりと描ききっていたところによるものでしょう。結婚式を挙げたといっても、実際にはまだ 23 歳。選ばれなかった4人にもまだいろんな未来の大人な出会いがあるはずと感じさせてくれる余韻もまた読後感の良さに繋がっているように思います。

……とまあいいことばかり書き連ねましたが、もちろん惜しいと感じるところもあります。主な点は 2 つ。

■ メディアの差異と尺の違いを吸収しきれなかったアニメ版

先にアニメ版から入った自分は完全に正ヒロインを読み違えたのですが、いやー、これ、自分でもしょうがないよね、と思います;。特に劇場版の方は、原作を解析してから改めてもう一度だけ劇場に見に行ったのですが、改めて見てみても、こりゃ初見で読み解けるわけないだろ……という作りでした;。

確かに改めて劇場版を見てみて非常に関心したのは、重要なセリフやカットを落とさないために、本当に秒単位で尺を切り詰めていたこと。90 分では入りきらないということで 120 分の尺をなんとか勝ち取り、秒単位で徹底的に切り詰めていたのはとにかく感心するところ。どのセリフやエピソードを落としてはいけないのか、という点については原作者と細かく詰めたという話ですが、なるほど確かに作品上重要と思われるものはほぼすべて拾われていたとは思います。

がしかし、なぜ致命的な順序の入れ替えをしたのかに関してだけは理解に苦しむところ。正ヒロインの印象を強めるために、関連エピソードをヒロイン選択の後に持ってきた……って、おいこらそれはミステリ風ラブコメ作品としては絶対にやっちゃいけないことだろ、と全力でツッコミたくなるわけです;。確かにこの構成にした方が、尺詰めしても理解しやすくなるのは確かだし、なにより時間の節約になる……のでしょうが、おかげでとにかく作品としての納得感が皆無になってしまっている。……というより並べ替えを許すのなら、なぜ〇〇の場合、をそのままの構成で残したのか。理由はシンプルで、ヒロイン選択までは五つ子のそれぞれの魅力を横並びにしっかり描くことに腐心しているから、なんですが、そうであるが故にその後に手のひらを返したようにヒロインにスポットライトが当たりっぱなしになってしまっているので、急に違う作品を見ているかのような錯覚に陥るのは非常に残念なところ。

結局のところ、これは例えば文字フォントの違いでヒントを出せるコミックスと、時間という尺に縛られるアニメというメディアの特性の違いを無視したアニメ化によるものなわけで、原作の各シーンを忠実に描こうとするあまりに原作の魅力のひとつであるミステリ要素が失われてしまったのは非常に残念です。まあぶっちゃけ、今どき初見で劇場版を見に来るファンなんていねーよ、と言われてしまえばそれまでなんですが(すすす、すみません;)、劇場版ではなく第 3 クールがあればもっとしっかり作り込めただろうと思うだけに残念ではあります。

……いやまあ、原作ファンのための映像化作品なんだ、と割り切れば、この劇場版は十二分すぎるほどよくできているんですけどね^^。とまあ、それより問題なのはどちらかというと次です。

■ ストーリーラインを優先したために違和感のあるシチュエーションやセリフ

この作品を解析してみると、驚くほど細かくよく作られている……と感じる一方で、いやこれはさすがに無茶だろ、と思うところもいくつかあります。その最たるものが、ヒロインとの結婚式。ヒロイン以外の四姉妹とマルオが親族顔合わせと挙式をすっぽかし、風太郎は指輪を忘れるという超カオス展開で、いやこれはさすがにちょっと……と思わずにはいられないところ。もちろんこの構成にした目的は明白で、五つ子ゲームを成立させるため……なのですが、一応みんな大学卒業したぐらいなんだからもうちょっとやりようはなかったの? と思わずにはいられません。

あるいは鐘キスでは「あの日から、きっとあの日からだ。彼女を特別に感じたのは、あの瞬間から」と風太郎は語っているのですが、実は風太郎は結婚式の後で話を聞くまで誰にキスにされたのかを誤解しており;、しかもそのときのことをすっかり忘れてるんですよね;。確かにこの鐘キスが風太郎にとってのファーストキスであり、このハプニングによって五つ子を恋愛対象として強制的に意識させられるようになった(結果的にヒロインのことも意識するようになっていった)のですが、それだったら別の言いようもあるわけで、要するに「このキスをしてる子が真のヒロインですよ」という説明をするためにセリフがヨレてしまっているんですよね。

この手の「ストーリー展開上のご都合で、意味合いがヨレている」セリフはいくつかあり、まあ読者の興味を誘うためだったろうとはいえ、ちょっともったいないなぁ、と思うところもありました。……まあ、この作品は「ラブコメ風ミステリ」ではなく「ミステリ風ラブコメ」なので、これでよいのですが;。

……とまあ、あれやこれやと書きましたが、個人的な総評を言えば、そんなのは些細なことだと全部無視してもよい、と思えるだけの素晴らしい作品だったと思います。上にも書いた通り、この作品は「ラブコメ風ミステリ」なくではなく「ミステリ風ラブコメ」なわけで、この作品で読み解くべきは、誰が花嫁の正体なのかではなく、一花や二乃、三玖、四葉、五月が、自分の気持ちにどうやって気付き、どう折り合いをつけていったのか、なんですよね。

そしてさらに加えて言うのなら、五つ子と同じ重要なのは、風太郎の性格や心境がどう変わっていったのか、という点。この作品の大きなポイントは、(かつての少女との約束から)勉強一辺倒になってしまった勉強バカの風太郎が、勉強も友情も、仕事も娯楽も恋愛も、すべてに常に全力投球する五つ子に感化されて、過去の思い出から脱却して変わっていく、というところなんですよ。

そして実はそれらを作品からきちんと読み取るのは、思ったよりも難しい。それは、登場人物が 6 人いることに加えて、五つ子の入れ替わりトリックがあるために、どの時点で誰がどこまでの情報を持っていて、お互いのことをどう思っているのかということを正しく把握することが難しいから。逆に言えば、ここをきちんと読み解けると、なぜそのときにその子がそういう行動を取ったのか、がすっと読み解けるものが非常に多く、ちょっとした行動やセリフの裏側にどれほどの想いが詰まっていたのかがわかって心が揺さぶれられるんですよ。

嘘つきから始まって嘘つきを演じることですべてを精算しようとした一花。
一番家族思いで、一番の強さと弱さを合わせ持ち、そうであるが故になかなか飛び立てずにいる二乃。
自分を信じられない陰キャから、一番の成長を見せ、最後には風太郎や四葉、二乃すらも救って見せた三玖。
他人からの善意を受け止められるようになって初めて自立することができた四葉。
母を演じることで自分の気持ちに気付くことができず、気付いたときには恋が終わっていた五月。
勉強以外にも大切なことがたくさんあることを教えられ、変わっていくことができた風太郎。

それぞれに想いがあり、それぞれに青春がある。そのかけがえのない物語が、この 14 冊に詰まっている。

軽くネットを巡回してみたところ、やはり非常に多くの考察サイトがあるようで、さすがに人気作品だけあって非常に深く考察・解析されているのですが、一方で、作品終了後に全体を俯瞰してまとめているサイトは見当たりませんでした。なので、私自身が物語をもっと深く理解し、楽しむために、ストーリーラインを改めてまとめてみました。「そこは解釈が違うだろ」みたいなところもあるかもしれませんが、まあそこはそれ。この作品解析が、さらに「五等分の花嫁」という作品を楽しむ一助になれば幸いです。

# というか、この作品をリアルタイムで楽しめなかったのが返す返すも残念……;。今更感は多分にありますが、まあ自分は面白かったのでよしとします^^。

というわけで、以下インデックスです。


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